■ 藍の所在


何故人を殺してはいけないのだろうか
何故あの人は死ななければならなかったのだろうか

死んでもいい人間はいるのだろうか
殺してもいい人間はいるのだろうか




1.はじめに

 このシナリオは『クトゥルフ神話TRPG(第六版)』に対応したシナリオである。
 このシナリオの舞台は現代日本を想定している。季節は特に指定しない。
 シナリオには独自設定が含まれている。戦闘はなく、神話生物はでてこない。少し癖のあるシナリオとなっている。


[今回のシナリオ傾向]
・プレイ人数:1~3名(推奨人数1名)
・プレイ時間:2~3時間程度

・推奨職業:特になし
・推奨技能:≪目星≫≪図書館≫≪言いくるめ≫
 本シナリオの題材的に、探索者は倫理観を持った者であることを推奨する。(まあ、その辺はお好みで。ご自由に)


 導入の前に、ワンクッション・前日譚のようなものがあることをPLに伝えておこう。
 組み合わせロールを試みるように記述している箇所や、調査時の技能をしている箇所があるが、KP裁量で変更を加えてもらって構わない。
 そのほか、足りないと思った箇所は付け足し、要らないと思った箇所は削って、遊びやすいように手を加えてもらいたい。






2.シナリオ概要(KP情報)


 NPC【井上伊織】が探索者の目の前で交通事故に遭う。
 死亡したと思われた伊織は翌日、五体満足で探索者の前に現れた。彼(あるいは彼女)は、一度死亡したのち、魔術的な蘇生措置を施されていたのだ。 しかし、それは不完全なものであり、仮初の命を与えられただけの伊織は、事故から三日目の日に死ぬ運命にあった。

 そんなとき、探索者は伊織の祖父の家で『藍の丸薬』に関する記述を見つける。 これは、「仮初の命を持つものに生を与える」という効果のあるもので、これを使用すれば伊織に迫る死も回避ができるようだった。
 「藍の丸薬」の製作には、「人魚の涙」を飲んだ者を「人魚のナイフ」で刺す必要がある。「人魚のナイフ」で心臓を刺された者が怪我を負うことはないが、このナイフを使用し誰か(人間)の心臓を刺した者は死ぬらしい。
 伊織は探索者に選択を委ねた。

 このシナリオのクリア条件は、「クスモの刃」を使用して井上伊織に生を与えることである。


・進行について
伊織と仲良く(導入)→事故の真実を認識・伊織の状態を探る→伊織の延命方法を探る、という順でのシナリオ進行を想定している。





▲上に

3.主要NPC

井上伊織(いのうえ・いおり) ―― 仮初の命を持つもの
ステータスは明確に定めない。KPの裁量にお任せする。

性別はPLや探索者の好みに合わせる。
探索者との関係は、長い付き合いのある幼馴染だとか、気の合う友人だとか。適当なものをKPが決める。

どうしてこいつが死ななければならなかったんだ、と思ってしまうような人柄にしよう。(提案)
人のいい・人好きする性格にしておくのがいい。

そして、日常の中でごく当たり前に起きる「理不尽な死」を演出する。
※シナリオ中の描写・台詞の記載は、作者が伊織を二十代男性で設定した際のものになっている。


井上沙織(いのうえ・さおり) ―― 伊織の姉
井上伊織の姉。探索者との交友は無いか、あるにしても浅い。
他人に不満や文句ばかり言う人。他人に色々求める前に、自分の行動見直そうね、というような性格をしている。
周囲の人間にあまり好かれていない。


小原樹里(こはら・じゅり) ―― 殺人犯
井上沙織の同僚。沙織を殺害した。
罪の意識が欠け落ちている。


井上聡(いのうえ・さとる) ―― 伊織の父
大きな病院・井上医院の医院長。沙織の死にひどく動揺し、伊織まで失うことを恐れている。


井上タエ子(いのうえ・たえこ) ―― 伊織の祖母
故人。謎が多い人。


井上剛史(いのうえ・つよし) ―― 伊織の祖父
父方の祖父。数年前に心臓病で倒れたが、奇跡的な快復を見せた。






▲上に









4.前日譚

探索者の友人(あるいは幼馴染)、井上伊織は落ち込んでいる。
最近、彼の姉・井上沙織が死んだ、いや、殺されたのだった。

伊織は、姉のことをそこまで好きではなかった。きつい性格をしていた。
だけれど、死んでほしいとまでは思っていなかった。
伊織は探索者に、どうして姉が死ななければならなかったのかを知りたいと、涙ながらに言葉を零す。

姉が死んだ件について、伊織は遺族でありながら、ニュースや新聞などで報道されている程度の内容しか知らないのだという。伊織は実家で両親との三人暮らし。姉は随分前に実家を出ており、長らく会っていなかったそうだ。
姉が殺された理由を知るために、伊織は探索者に、共に警察署に行って犯人との面会を掛け合ってほしいと頼み込む。


・コメント
誰かのために幸せを祈れるような。穏やかを願うような。そんないおりんにしよう。
正直なところ、NPCとの友好が深められてPLに思い入れができていれば、前日譚は何でもいい。




探索者は、伊織の姉が殺された事件に関して、ある程度のことを知っている。

井上沙織の死

新聞、ニュースでも報道された。週刊誌、ゴシップの類は好き勝手に連ねている

・事件概要
某月某日、××県××市にあるウィークリーマンションで井上沙織は小原樹里に殺害された。
死因は首が締められたことによる窒息死。
樹里は、会社の飲み会で泥酔中の沙織に睡眠薬を飲ませ、意識のない彼女の首を細い革のベルトで絞め殺害した。
殺害後、間もなく犯人である樹里は警察に自首し、逮捕された。現在その身柄は警察署に拘束されている。
沙織と樹里の関係は、仕事場の同僚。


≪アイデア≫成功で、どこかで聞いた気のする以下の情報を思い出す。
≪図書館≫成功で、ネットで調べて情報を得たという処理にしてもいい。

・事件概要 追加情報
殺人の動機に関して、犯人の回答は「人を殺してはいけない理由を知りたかったから」
犯人は、この件に関して罪の意識がない様子を見せている。怨恨の線は、警察の調査からも否定されている。
刑事裁判が起こされているが、被告の弁護側が、事件当時の樹里が善悪の区別のつかない・心神喪失状態にあったとして、それを理由に無罪を主張している。


 探索者がオカルティックな事件を疑った場合、現在持っている情報に対して≪オカルト≫を試みることができる。
 技能ロールに成功した場合、ごく普通の刑事事件であり、どこも変わったところがないと分かる。
 そのほか、この事件に関連して、オカルティックな噂がないか調べる場合は≪図書館≫と≪オカルト≫の組み合わせロールを試みることができる。

≪図書館≫+≪オカルト≫成功
世の中にはごくありふれた、しかし当事者にはむごい殺人事件だった、というような印象を受ける情報しか出てこない。オカルティックな気配はどこにもなかった。


 ゴシップ誌では特に、当事者に配慮のない、読者の興味を引くものならなんでも書いてやれ、とでもいうような調子で、犯人の異常性を書き連ねている。
 樹里を知る者に対して聞き込みをした場合にも、似たような内容が聞ける。

・小原樹里
この度の事件に対し、極度に罪の意識がない。他人を殺すこと、他人が死ぬことに対し、生物が持っていて当然と思われる忌避感がない。
ただ、彼女が加虐趣味であるとか、暴力的な性格をしているというわけではなく、周囲の人間にしてみれば異常な行動が、当人の中では極純粋に論理立っているということらしい。社会性を持つ生き物としては忌避すべき行動を、平然ととってしまえるひとなのだ。
他人の情緒を理解することができない、根本的に考え方がずれているという印象を受けるだろう。

 この事件に対し、犯人を知る周りの人間の反応は、「そういう素質があったひとだよねー」「いつか殺すと思ってた」というもの。彼女のこの考え方は、急にこうなったというわけではなく、昔からのものだったらしい。




警察署

犯人は現在拘留中、面会不可。
そこをなんとか、と伊織はこの事件の担当警官に頼み込む。

≪言いくるめ≫などの成否にかかわらず、最終的に押し負けた警官が、取り調べの音声データを提供するというかたちでこの場面は落ち着く。
本来外部に流出させていいものではないため、音声データは警察署内でこっそり聴くよう言われ、音楽再生機器を手渡される。


・音声データ
警察による取り調べの際の音声が録音されたデータ。幾らか編集が施されている。一時間程度で聞き終える。

殺人者の動機
「何故人を殺してはいけないのか、その理由がわからなかった」
「実際に罪を犯してみれば分かるかと思った」
「人を殺してはいけない理由については、今も分からない」

言葉を続ける樹里
「法で定められているから、人を殺してはいけないというのは分かる」
「だが、その法は他ならない、人が定めたものだろう」
「何故定めたのか、それが分からない。ずっとそればかり考えている」
「人が生きる行為に罪を見出すとすればそれは、罪を定義した人間側の問題だ」

「仮に人を殺すことが合法とされたとして、人を殺したいと思わなければ、誰かを殺すということにはならないのではないか」
「もし、人を殺すことが許されざることならば、何故、そのような『許されざること』が実際にまかり通っている? 何故、人を殺した私は平気でいられる?」
「分からない分からない分からない分からない分からない分からない」

何故沙織を殺したのか
「彼女は周りの人にあまり好かれていなかったから」
「どうせ死ぬならそういった人間の方がいいと思った」


・音声データを聞き終えた伊織
そんな理由で、と伊織は絶句する。

「こいつ頭おかしいだろ」
「理由なんてなくったって、人を殺しちゃ駄目だろ」
「殺したら、死ぬじゃん…なんていうか、上手く言えないけど…」
「でも、俺、誰かが殺すのも、殺されるのも、死ぬのも嫌だぜ」
「そういうものじゃないのかよ」




その他、以下の情報は適宜提供。

・事件の詳細
樹里一人での犯行。犯人、被害者以外の人間がいたという痕跡はない。
目撃者もいない。

・睡眠薬について
使用したものは海外から輸入した睡眠薬。ネットの通販で取り寄せた。
一般の市販はされていないが、海外ではそこそこメジャーな睡眠薬。特別変わったものというわけでもなく、日本でもそれなりに知られている種類。
今回のために取り寄せたようで、樹里が病院に通院している様子はない。


・樹里と沙織の関係
同僚。それ以上でもそれ以下でもない。
仲は良くも悪くもなく。そもそも接点が、同じ職場ということくらいしかない。


・警察の人の推測
計画性がある犯行として、責任能力はあるだろうと判断されそうである。刑罰は受けることになるだろう、というのが警官の見解。
「刑事裁判で被害者側が納得いかなくても、民事訴訟を起こすだろうしな。被害者の父親は大きな病院の院長だと聞くから、金は積むんじゃないか?」 とかなんとか。
(この情報は、ゴシップ誌の記者に言わせてもよい)

探索者は「大きな病院」と聞き、このあたりにある「井上医院」の存在を思い出すことができる。


・伊織のパパ、大きな病院の院長なの?
「おー、そうだぜ」




遺品の整理

警察署からの帰り道、伊織は遺品整理に姉の部屋へ向かうことを告げる。段ボールに詰めるだけだからと、探索者にも手伝ってくれるよう声を掛ける。


訪れたのは、ワンルームマンションの一室。
姉の部屋で、伊織は力無く沙織の遺品整理をする。

床に落ちているストラップに、伊織は懐かしいものを見たとでもいうような顔で「これ姉貴にとられたストラップだー」とこぼす。思い出の品だったらしい。
ストラップは余り大切にされていた様子でなく、無造作に放置されていた。


遺品整理を手伝っていた探索者は、沙織の日記をみつける。

最後の日付は、沙織が高校卒業時のもの。
(沙織は高校を卒業してすぐに就職している)

・沙織の日記
伊織ばっかり可愛がられてる。
伊織がやりたいことをやるために、私は自分の夢を諦めなくちゃいけない
親の言いなりにならなきゃいけない

昔から私は犠牲になってばっかりだった
憎くて仕方ない。伊織なんて死んでしまえばいい

こんなこと考えてしまう自分が嫌、私こそ死んでしまえばいいのに
こんな風に考えちゃうから誰にも好かれないんだ
わかってるけど無理だよ、変えられないよ、つらいよ

こんな気持ちになりたくない
もう何も考えたくない

そんな、沙織の割り切れないお悩み感溢れる記述があった。


伊織は日記の内容を知ると、どうして姉の苦しみを気付いてあげられなかったんだろうと嘆く。
「俺は姉貴とは、そんなに仲良くなかったよ。姉貴、性格わりぃし」
「でも、こんな悩みを抱えてるって、俺のせいだって、それが分かってたら、もっとやりようがあったかもしれないのに……」

もう遅いよ、と伊織は小さく呟く。
伊織は探索者が励ませば笑顔になり、責めれば落ち込む。

※補足
伊織は、自分が親に自分ばかり可愛がられているという自覚はなく、姉が親に当たり散らすため、親も相応の態度で伊織や沙織に相対しているのだと考えていた。親側の見解も、実際伊織の認識通りである。
沙織は医大への進学を希望していたが、彼女の学力では現実的ではなかったため、親たちは就職を勧めたというのが真実。伊織の存在は関係ない。圧倒的に会話不足な被害妄想であった。






▲上に









5.導入

時刻は16時頃。沙織の住んでいたマンションから、帰宅する探索者と伊織。途中まで一緒の道を歩く。そして。

交差点に差し掛かった時、けたたましいクラクションが辺り一帯に鳴り響く。
大きなトラックが、探索者目掛けて突っ込んでくる。

探索者の名を叫ぶ、伊織の声。探索者は強い力に押され、アスファルトに転倒する。
そして――
どすん、と重みのある音がして、目の前で鮮やかな赤が舞った。

きゅるきゅる、きゅるきゅるとタイヤの回る音がする。それは赤色を引き摺って、十数メートルほど離れたところで止まった。
目の前で轢かれる友人。その凄惨な死を目撃した探索者は【正気度ロール 1/1d6】


くらり、と眩暈がする。気分が悪い。
探索者はその場で意識を失う。






目覚めれば、探索者は自室のベッドにいる。
長く寝ていたような感覚がする。日付を見れば、翌日の朝になっている。



※補足
平穏な、あの事故を夢と錯覚させるような、そんな演出をするといい。なんだー夢落ちかー。
ただし翌朝会った伊織の身体にはタイヤ痕がある。PLには混乱してもらおう。

・探索者を家に運んだのは誰?
探索者の友人や知人。警察に連絡されて、探索者の身柄を引き取り善意で運んだ。その人は事情をよく分かっていない。きっと、探索者は泥酔して寝てたとか思われてる。
(探索者に対して、事件の事情聴取は行われなかった。他に目撃者がいたこと・警察への圧力があったことが要因)






▲上に

6.探索

例の事故について

ネットか新聞を対象に≪図書館≫成功で、すぐさま事故の記述を見つける。
≪図書館≫を試みず(あるいは≪図書館≫失敗後)新聞を端から端まで読む場合は、≪母国語≫成功の上30分かけることで、≪図書館≫に成功した際と同様の情報を得る。

・事故について
ちいさく短い記事。時刻・場所共に探索者の記憶の通りのもの。轢かれた人物の名前は明かされておらず、病院に搬送されて以降の続報もない。生きてるとも死んでるとも書かれていない。

探索者がこの件の情報通にあたろうとした場合は、ゴシップ誌の記者などが候補に挙げられるだろう。
事件現場の近くで≪幸運≫成功で、目撃者に出会えることにしてもいい。

・ゴシップ誌の記者
事故を引き起こした大型トラックの運転手はスピード違反の常習犯であり、以前からよく注意を受けていたらしい。
記者は、被害者の話となったところで言い淀む。

≪言いくるめ≫あるいは≪説得≫もしくは≪信用≫成功
ここだけの話だが、この事故については報道に圧力がかかっている。
被害者の家族がどうやら、警察や報道組織の上層部に影響力を持つ大物政治家とコネを持つ人物のようで、ことを大きくしないことを望んだらしい。
そのため、このゴシップ記者も被害者の名を知らないのである。


・目撃者
「どなたか知らないけどお気の毒よね」
事故に遭った人間は重症に見えたこと、事故の瞬間を側で見ていた人間(探索者)が気絶するほど、被害者は悲惨な状態であったことが語られる。
伊織の写真などを見せれば、事故の被害者と特徴が一致しているという話が聞ける。





▲上に

・井上伊織

探索者から伊織に接触するようであればそれに任せ、その様子がなければ伊織の方からメールで連絡を入れること。内容は、昨日の警察署同行を感謝するもの。


井上伊織

顔色の悪さが目立つ。土気色の肌に、血が通っていないかのような白い腕。服の隙間から覗くタイヤの跡が痛々しい。
昨日の出来事に関して、記憶の混乱は見られない。ただ、事故に遭ったあとの記憶がないらしい。

「トラックが迫ってきた後必死で、何があったか覚えてないんだ」
「起きたら自宅でさ。まあ、大した怪我もしてなかったし」
「一日も経たずに動けるようになってよかったよ。血が出るようなことにはならなかったみたいだ」
「あの時は轢かれるとおもってたけど、案外かすっただけだったのかもな」

探索者は知っている。事故に遭った伊織は、血まみれだったことを。
あれは、一日も経たずに動けるようになる程度の怪我ではなかった。

ありえない事象を目の当たりにした探索者は【正気度ロール 0/1d2】


その身体に触れて、体調を確かめるなどする
息をしていない、脈がない。心臓は動いていない。体温が異様に低い。

≪医学≫成功
死人だこれ!

伊織が死んでいるという事実を認識した探索者は【正気度ロール 1/1d3】。


「母さん、疲れてるのか知らないけど様子が変で。俺は死んだはずだなんていうんだよ」
「姉貴のこともあって、家の空気がギスギスしてるんだ。今日はじいちゃん家に泊まろうと思ってる」

訊けば、伊織は祖父の家の住所を教えてくれる。

※補足
伊織は肉体が治りきっていないので、食事がうまくできない・味覚がおかしい、痛覚がないなど、生活に支障をきたしている。



伊織の母

伊織の家にいる。虚ろな目をしており、やつれた様子で、今は何も話したくないと言う。

≪言いくるめ≫あるいは≪精神分析≫または≪説得≫または≪信用≫成功
昨日、病院で一度伊織の死を看取った。その後、主人が伊織と共に手術室に籠り、日付の変わる前には今の伊織を連れ帰ってきたという。
死人が生き返るはずはないから、あれは伊織のふりをして私を騙そうとしている化け物なのだと彼女は言う。妄執に取り憑かれている様子である。


※備考
伊織の父は現在、病院(井上医院)にいる。






▲上に

・井上医院

・井上医院について
個人経営の病院ながら、かなりの規模を誇る。


病院の受付(事務窓口)

外来受け付け口と、予約の人の受付口、事務窓口がある。探索者の用向き的には、事務窓口が適切だろう。

・事務窓口で、医院長に用があることを話す
昨日は長く集中治療室に籠っていたらしく、現在は仮眠中とのこと。
起きたら医院長に来客があったことを伝えておく。連絡を入れるので、連絡先を教えてほしいと話す。

・伊織の友人だということを話す
「あらー、伊織君のお友達なのね!」
「今日は医院長も非番だし、あと一、二時間もしないうちには起きるでしょうから、お部屋で待たせてもらったらどうー?」

伊織の友人だと分かった途端、とても友好的に接してくれる。病院で働く人たちの伊織への好感度は高い。可愛がられている。
伊織を経由する場合、伊織から受付へ連絡が届いている。その場合も同じく、伊織の父親の部屋へと誘導される。
部屋の場所さえ分かるのであれば、アポなし無断侵入も可。適宜技能を使用する。


※補足
探索者は伊織の父親が医者であることすら初耳。初めて会う。
伊織の父親は、彼自身が権力を持ち警察に圧力を掛けられるというわけではない。 圧力をかけることが可能な政治家と懇意にしていたり、医療界の権威とコネがあったりする。




医院内、伊織の父親の部屋

執務机とソファ、ファイルや書籍等がしまい込まれた棚がある。物はそう多くない、簡素な部屋である。
ソファに初老の男性が眠っている。探索者には、おそらくその男性が井上伊織の父親であることが分かる。
男性の目の下には隈がある。ひどく疲れているような様子で、ちょっとやそっとでは目覚めそうにない。
彼の近くには、小さな置時計が置かれている。

何もしなければ、置時計の目覚ましによって2時間後に起きる。起こせば起きる。




・小さな置時計
ごく普通の時計。2時間後に目覚ましが設定されている。

※補足
目覚ましの設定時間を3時間後以降にずらしたり、オフにしたりした場合、井上父は3時間後に目覚める。


◇ 執務机
引き出し付きの机。机の上には日記らしきものがある。
引き出しに鍵はかかっていない。引き出しの中には、ぽつんとひとつだけ鍵が入っている。

・日記
覚書のように単語だけがメモされている日が多い。
沙織の亡くなった日、伊織が事故に遭った日など、大きな事件のあった日は文章で記述されている様子である。

・沙織の亡くなった日
助からなかった。助けられなかった
うちの病院で処置したのに、できる手は全て尽くしたというのに


・伊織の事故に遭った日
沙織に引き続いて伊織までも! 否、否、こんなことが、認められるはずがない。認めるものか、私は諦めない。
沙織は、医術で助けることができなかった。これが医術の限界だというのか。
しかし、まだ手はあるはずだ。他のすべを施せば。
母よ、力を貸してくれ。



伊織に『仮初の命』を使用した。全身が気怠い。自身が魔術を行使した感覚が、確かにあった。
母の遺した本によれば、この魔術は西洋の『復活』魔術や、西行法師で有名な『反魂の秘術』を参考に「人の命の仕組み」を独自に解き明かし、 より手軽に行使できるようにしたものらしい。これで延命の効果が見込める。



魂の定着はできたが、身体の機能が回復しない。これでは伊織は、もって三日の命だろう。
どうすればいいのか、どうしたらよかったのか。私にはもう分からない。
『反魂の秘術』を参考にしているために、この術を用いていることは誰にも明かせない。誰かに相談することはできない。
私が何とかしなければ。
私が、何とか、
私が。
どうやって?

もう駄目だ、おしまいだ。
すまない、伊織。


≪知識≫成功
『撰集抄』という説話集に掲載されている、西行法師の「反魂の秘術」にまつわる創作話を知っている。

・「西行於高野奥造人事」
高野山での修行生活中、人恋しさから鬼の法を真似た「反魂の秘術」を用い、人骨から人を造ったが、出来上がったものは顔色も悪く、意味不明のことを言うだけで、とても話し相手になどにはならない失敗作であった。

この術に関して一家言あるという、とある中納言は、この術の不完全さを指摘したのち、自身が何度もこの術を成功させていることを話す。
その際中納言は、術によって生を得た人の名は、自分の口からは明かせない、というようなことを述べている。口に出すと、自身もその人(名を明かされた、術によって生を得た人)も溶け失せてしまうというのだ。

知らなくても、≪図書館≫成功で同じ情報を調べることができる。

・探索者がこの話を知っているならば、
「反魂の秘術」を用いた対象の名を術者が明かせば、術者も対象も溶け失せてしまうということが分かるだろう。
日記で記述されている、自分からは明かせないという理由がそこにあることも理解するはずだ。

※補足
更に詳しい内容・正しい内容が気になる方は、ぐーぐる大先生に訊いてみるといいかと思います。
今回は、シナリオに組み込みやすいように手を加えています。


なお、この段階になっても仮眠室の井上父はかわらず寝息を立てており、伊織も元気にしている。
探索者は≪アイデア≫を試みることができる。

≪アイデア≫成功
探索者は日記を読み、伊織に術が行使されたことを知ったはずだ。しかし、術者であるはずの井上父は無事な様子である。
言霊、というものがある。言葉には霊的な力が宿るというものだが、その力は言葉を音として発した時に揮われる。祝詞、呪文などはその延長にあるものだろう。
『仮初の命』の行使については、「術者が口に出す」ことがトリガーなのであり、探索者は文字として読んだため平気だったのではないかという考えが思い浮かぶ。



※備考
伊織の父親への≪言いくるめ≫は罠。
西行って歌人だし、和歌は祝詞のようなものだからな(?)、なるほどな。




◇ 棚
鍵が掛かっている。中には幾多ものファイルと幾つかの本が並んでいる。

棚に≪目星≫成功
タイトルの書かれていない本があることに気付く。茶色いカバーで、随分と年季の入ったもののようだ。

※備考
この棚は≪鍵開け≫成功か、机の引き出し中にある鍵で開けることができる。


・ファイル類
医術の勉強に用いられたらしい資料や論文が綴じられている。ところどころに手書きのメモがされている。
患者の個人情報を扱うカルテなどは置いてない。


・茶色いカバーの本
年季の入った茶色いカバーの本。外国語で書かれている中、ところどころに日本語で注釈らしきものが書かれている。
本の裏表紙には、所有者を示すように、「井上タエ子」との文字が書かれている。
本には二つ折りにされたメモが一枚挟まれている。

注釈の筆跡に対して≪目星≫成功
筆跡は二種類ある(二人の異なる人物が注釈をつけている)ことに気付く。
筆跡のひとつはファイルに綴じられた書類に散見する筆跡に似ている。もうひとつの筆跡は、「井上タエ子」と書かれた文字に似ている。


この本は、独特な癖のある分かりづらい古い表現のドイツ語で書かれている。
暗号が含まれているため、理解には≪母国語orほかの言語:ドイツ語≫成功の上、一年ほどかかりそうである。
なお、INT14以上の探索者には、これが医術書の形式をとった魔導書だということが分かる。


・挟まれていたメモ
メモを開くと、「仮初の命」と「仮初の命を持つもの」について書かれている。


・「仮初の命」
死後24時間以内の人間の魂を、生前と同じ状態で保つ。保てる期間は72時間。
その際、魂の器(肉体)もある程度は自動修復される。損傷が激しい場合は治りきらない。
魂の保たれなくなった肉体は、急速に腐敗し朽ち果てる。

・「仮初の命を持つもの」
仮初の命を持った者のそれは、偽りの生でしかなく、死者と同じである。

仮初の命を絶つには、その魂を傷つけるか、魔力の付与された武器でその肉体を傷つける必要がある。


※補足
茶色いカバーの本は元々伊織の祖母の持ち物だった。ドイツと日本のハーフおばあちゃん。タエ子の母の実家が太い魔女魔術師系統の家。
挟まれていたメモは伊織の父が書いたもの。


井上聡

伊織の父親、井上医院の医院長。目の下の隈は濃い。
寝起きは寝ぼけ眼でいて、探索者の姿に怪訝そうな顔をする。伊織の知り合いであることを告げれば、会話を試みることが可能だろう。

彼が寝不足なのは、長い時間手術室に籠り、遅くまで伊織の身体の縫合をしていたため。
「仮初の命」が肉体の自動修復を行ったとして、伊織の肉体は到底見られたものではない惨状だったのだ。とてもすごいがんばった。

警察上部にコネを持っているので、ちょっとした事件をもみ消す、沙織殺害犯と探索者との面会を秒速でセッティングする等も可能な人。
彼は沙織の死にひどく動揺し、伊織まで失うことを恐れている。
自分ではどうしようもできないと絶望しているので、探索者が協力を申し出れば喜んで受け入れる。探索者の行動にも協力的になる。
法よりも情で、大衆利益よりも自己都合で動いてしまう人間である。


伊織の父親と伊織の問題の件を相談する、死者蘇生や魔術の話題を出す
今の伊織の父親は心身ともに疲労しており、判断力が低下している。口を滑らせやすいお茶目ドジっ子おじさんである。
伊織の父親と伊織の問題の件を相談する、死者蘇生や魔術の話題を出す場合、口頭で話した場合伊織の父はその場で溶けていなくなる。伊織も溶けて消える。

伊織の父、あるいは、伊織が目の前で溶けて消える姿を見た探索者は【正気度ロール 1d4/1d10】
そのままエンディングへ。

文面にした場合はセーフ。問題なく相談することができる。
文面で相談する際には、探索者の方から筆談を申し出たり、口に出さないことを伊織の父親に予め言い含めてやったりすると安心だろう。
伊織の父親が口を滑らせそうになった場面では、適宜≪幸運≫を振るなどして対応する。


伊織の仮初の命の正確なタイムリミットを確認する
伊織を助けようとしている探索者の問いであれば、隠さず偽りなく答える。
伊織の「仮初の命」は、魔術を行使してから72時間有効。事故の日の16時頃に魔術を行使したため、事故の日を1日目として、4日目の16時がタイムリミットである。










▲上に

・伊織の祖父の家

この場所は、事故から3日目、伊織の仮初の命のタイムリミットまで24時間を切った段階での探索を想定している。
もちろん、探索者の探索の様子によってはその限りではない。


事故翌日の夕方

夕食後くらいの時間帯になって、きいてほしいことがあるのでこちら(伊織の祖父の家)まで来てほしいと、伊織から探索者に呼び出しがかかる。 あるいは深夜帯に電話でもいい。

「食べた物が喉を通らないんで、おかしいなとは思っていたんだ」
「もう気付いてるんだろ?」

「――俺、死んでるんだって」

明るい声で伊織は告げる。

「不思議だよな。こんな風に今、話せてるのに」
「なんか、明日で時間切れっぽいんだ。だから、あと一日と少し、変わらずよろしく! ……してくれるとうれしいな!」

伊織は笑おうとして、失敗したように顔をくしゃくしゃにする。
探索者は、残りの日をどう過ごすか考えること。


※備考
その日は伊織の祖父の家に泊まって、翌日祖父の家探索、という流れを想定している。




伊織の祖父の家

古いが手入れされている様子の平屋。立派な門構えで、屋敷と称するのが似合う。


井上剛史

父方の祖父。数年前に心臓病で倒れたが、奇跡的な快復を見せた。今は元気元気!
ただ、同じ時期に倒れた妻(伊織の祖母・タエ子)が急に心臓麻痺で亡くなったのにショックを受けている。寂しそう。

・剛史が倒れた際の記憶
おぼろげな記憶の中、タエ子に青いものを口に含まされたのを覚えている。あれがあったからこそ、自分は今生きているような気がする。
目が覚めたら必ず礼を言おうと思っていたのに、自身が意識を取り戻したときにはもう、タエ子は剛史の傍で亡くなっていた。

※備考
昔心臓病だったけど、タエ子が『藍の丸薬』でなおしてくれたよ! そのかわりタエ子は死んだよ!!
タエ子が剛史にきちんとお薬を飲ませることができたのは、彼女の執念によるもの。




伊織の祖母・井上タエ子の部屋

タエ子の死後、開かずの間になっている。部屋の中は当時そのままに残っている。

広々とした和室。御香のような、独特の香りがする。
部屋の持ち主の趣味なのか、古びた日本人形らしきものと西洋人形らしきものが飾られている
部屋には本棚、文机、押入れがある。


◇ 押入れ
下の段に敷きオフトゥンが畳まれ仕舞われている。
押入れの天井に、屋根裏にいけるらしい小さな戸がついている。

◇ 屋根裏
丸みを帯びた古い壷を発見する。また、壷の下には覚書のような走り書きのメモがあった。
壷の中には、薬紙に包まれた刃渡り5cmほどの小さな刃物が収められている。柄を含めた全長はボールペンほどのサイズ。
また、透明な液体の入った親指大の小瓶がある。

・走り書きのメモ
これぞ「スクモの刃」なり。この刃で「人魚の涙」を飲んだ者の心の臓を刺した時、刃を手にし刺した者の罪業と命をもって『藍の丸薬』は完成する。
『藍の丸薬』は死の淵にいるもの、仮初の命を持つものに生を与える。
・透明な液体の入った小瓶
小瓶は無色透明。液体も一見無色に見える、が、向こう側が透けることがない。『透明色』の液体だ。
【正気度ロール 0/1】

※補足
「すくも」は漢字にすると「藍玉」。藍の妙薬という駄洒落になっているような、いないような。
この液体「人魚の涙」は無臭。舐めるとしょっぱい。




◇ 本棚
年季の入った本が並んでいる。外国語で書かれているものも少なくない。(ドイツ語、英語、ラテン語など)
ちらほらと和綴じの本もあるようで、それはどうやら手書きで書き記されている。

≪図書館≫成功で、伊織の延命に使えそうな『藍の丸薬』について記述された、藍色の和綴じの本をすぐに見つけることができる。
使用しない場合や失敗した場合は1時間かかる。


・藍色の和綴じの本
全て読むには、≪母国語:日本語≫成功のうえ3時間程度掛かる。判定に失敗した場合、3時間後に再度読むことを試みられる。
『藍の丸薬』について、小難しく書かれているが、概略としては以下の通りだ。

・妙薬『藍の丸薬』
『藍の丸薬』は死の淵にいるもの、仮初の命を持つものに生を与える。この効果が有効なのは、丸薬が生成されてから1時間程度の時間である。

・「スクモの刃」
魔力を帯びた特殊な刃物。
「人魚の涙」を飲んだ者を刺したとき、「人魚の涙」を飲んだ者を傷つけない。刺した者の命を奪い、妙薬『藍の丸薬』を生成する。
それ以外で用いたとして、魔力を纏っているだけの小さな刃物である。

・「人魚の涙」
無色に非ざる透明色の液体。飲んだ者の心臓を青く染め、刻で死に至らしめる。少量ならば人体に影響はない。(材料や調合方法については、この本には載っていないようだ。)

・「スクモの刃」と「人魚の涙」
「人魚の涙」を飲み込んだ者の心臓は青く染まる。この心臓を刺すことで、「スクモの刃」は妙薬『藍の丸薬』を生成する。この時、『藍の丸薬』には「スクモの刃」を用いた者の罪業と命が籠められる。
この時籠められる命は、『藍の丸薬』で与えられる生への対価であ理、生を与える対象と同種族のものである必要がある。人には人の、猫には猫の命が要される。

「なあ、俺が生きるためには、誰かに死んでもらわないと……いや、誰かを殺さないといけないんだってさ」
「人が人を殺していい道理なんて、あるんだろうか」




ここまで情報が揃い、伊織の延命に誰かの命が犠牲になる必要があると判明すると、
伊織は、誰を犠牲にするかは貴方の手に委ねると告げる。伊織が「スクモの刃」を持っていれば、スクモの刃を探索者の手に渡す。

「お前が決めてくれるなら、その選択に後悔はないと思うから」
「もちろん、俺を見しにしてくれてもいい」
「……背負わせて、ごめん。けど、これが俺にとって一番いい選択のように思えるんだ」

探索者を信頼している様子で、毅然と、あるいはにかっと笑い、告げる。


・伊織は生きたいか
「聞くまでもないだろ、生きたいに決まってる。けど、それは誰かを殺していい理由にはならないだろ?」
「俺が生きたいのは俺の身勝手な都合でしかなくて、その都合のために誰かに死んでもらうって、正直めちゃくちゃ気が重い。自分が悪いことをしている気分になる。……いや、実際悪いことなんだろうな」







▲上に

7.スクモの刃

伊織が人魚の涙を飲んで2時間後か、命のタイムリミット(4日目16時)が来れば、伊織は死亡する。
探索者は、「スクモの刃」を誰が伊織の心臓に突き刺すのかを決める。

「殺してもいい人間」として、真っ先に思い浮かびやすいであろうのが、伊織の姉を殺した犯人・樹里だ。だが、彼女の身柄は警察にある。
この身柄を預かるのにいい方法がないか、探索者が悩んでいるようであれば、伊織のパパからそれとなーく警察へ圧力かけられる話をしよう。


◇ 小原樹里
「私にはわからない」
「何故人を殺してはいけないのか、その理由がわからなかった」
「もしわかるのであれば何をしてもいい。この命をかけてもいい」

・小原樹里を騙して刺させる、あるいは説得して刺させる
探索者が「この刃物で刺せば理由は分かる」等と主張すれば自動成功。その他の理由なら、≪言いくるめ≫あるいは≪説得≫に成功すること。


◇ 井上聡
伊織を助けるためとあらば、喜んで刺す役を引き受ける。命を差し出す覚悟はとっくにしている。 伊織がどれだけ嫌がろうとも、井上聡は彼自身のエゴをもって完遂しようとする。


◇ その他、自殺志願者など




伊織以外が「スクモの刃」を刺す

「人魚の涙」を飲んだ伊織に「スクモの刃」を刺した者は、その瞬間その場で倒れる。
目に光はなく、息をしていない。脈はない。生命活動を停止――死んだのだ。
刺さっていた刃は、ずるりとひとりでに抜け、床へと落ちる。
――べちゃり、と。 するはずのない水音がする。床に転がる刃に視線を向ければ、そこには、未だ脈打つ青い心臓が刺さっていた。
人の死と剥き出しの青い心臓。非日常で非常識な光景を見た探索者は【正気度ロール 1d2/1d6】


どくん。
青い心臓が一際大きく脈動すると、それは空気の抜けた風船のように急速に萎みだし、小指の爪ほどの大きさの丸い粒になった。


・『藍の丸薬』
深い青の色をした丸薬。
手に取ればなぜか生ぬるい温度で、いまだに脈動を感じる。その小さなサイズに見合わぬ、妙な存在感がある。


伊織自身が「スクモの刃」を刺す

途端、伊織の身はその場で崩れ落ちた。光を失った目をして、ぴくりとも動かない。
『藍の丸薬』生成時は、他の者が刺した場合と同様。「伊織以外が『スクモの刃』を刺す」の記述を参照。正気度ロールも行う。

探索者の手で『藍の丸薬』を伊織の口に押し込めば、心臓が再び鼓動をならしはじめ、肌に血色が戻り、息を吹き返す。
伊織はゆっくりと目を開く。探索者の顔を見て、戸惑いと、驚きと、それ以上の喜びに目を輝かせる。

「お前を信じてよかった」
感無量といった様子で、伊織は探索者の手を取り、産まれたばかりの赤子のように泣きじゃくる。









▲上に

エンディング

 このシナリオのクリア条件は、「クスモの刃」を使用して井上伊織に生を与えることである。

CLEAR [無犠牲END] ―― 「信じてよかった」
・伊織が「スクモの刃」を用いる。自分で自分の心臓を刺す。
伊織にとって、自身に生きる意味があるのかは未だに分からない。ただ、今この時が幸いだと、生きていてよかったと思う。
伊織はこれから、その意味を自身に問うことになる。その意味を見出すために生きようとする。




CLEAR [犠牲で延命END] ―― 「殺してもいい人間? いるぜぇ!」
・要は、伊織の延命のために誰かが「スクモの刃」を刺す。
「そうか。俺は誰かを踏みにじって、何かを犠牲にして、そうして生きてきたのか」
「そしてこれからも――」
「そうか…」
苦しげな表情で、あふれる涙が零れぬように、上を向き、疲れたように、息を吐く。
「そうか…」

刺した者が○○の場合、の話
・探索者自身
・伊織の身内
犠牲になったものの命を無駄にしないために、伊織は精一杯生きるだろう

・沙織を殺害した犯人
「自分のために、犯人は死んだ。それは分かってる」
「それなのに、何故だろう。感謝の念も、罪悪感みたいなものも、全く感じられないんだ」
これでは犯人と同じかもしれないと、複雑そうな表情をしながらも、伊織はその結果を受け容れ、生きていくだろう。

・自殺志願者
・その他、無関係の人
伊織は、自身の命が何らかの犠牲の上に成り立っていることを理解し、自身が生きることの罪深さを常々感じながら生きるだろう。


もし、探索者が誰かを騙して「スクモの刃」を刺す役をさせるようであれば、探索者は探索者自身の決意を持ってその人を殺したのだ、ということの描写を強調して、正気度ロールを行なっても良い。



SAD [伊織死亡END] ―― 「死人は死んどけ!」
・「スクモの刃」を使わずに伊織を死なせてしまう、あるいは、見殺しにしてタイムリミットを迎える。かなしい。
「お前に任せて正解だったよ」と伊織は笑って探索者の目の前でこと切れる。
伊織が目の前で死ぬ姿を見るのは二度目だ。そして、もう見ることはない。
伊織は永遠の眠りについた。




BAD[伊織父・伊織溶解消滅END] ―― 「取り戻せるものはない」
・伊織の父が口を滑らせ、行使した「仮初の命」の魔術の話を第三者にしてしまう。
伊織の父と伊織は行方不明者として捜索されているが、結果は芳しくない。当たり前だ、あの二人はもうどこにもいないのだから。







▲上に

.クリア報酬

・最後まで遊んだ
1d4の正気度回復

・犠牲を払わず伊織を生かした(伊織自身が刺す)
1d4+2の正気度回復

・スクモの刃
アーティファクト。魔力を帯びている。データ的には、魔力を帯びたナイフ扱いとする。物理的に干渉できない対象に、攻撃を加えることができる。




▲上に

あとがき

「理不尽な死」をテーマにしたシナリオです。
さて、探索者は何かのために誰かを死なせることを肯定したでしょうか。

いつもは作らない哲学じみた要素の入った話になりました。なんだか笑い飛ばしづらいものになってしまったかもしれません。
探索者に殺人教唆をするようなシナリオではなく、犠牲を払うことを強要するシナリオでもありませんが、 お好みによってはそんな展開もあっていいのかなと思っています。テストプレイの際には、PLさんは樹里への殺意一直線でした。こわい。

元はいおりんパパに手術室を借りて胸を切り拓いて心臓を収穫してそれを食べさせるような感じだったんですが、手間がかかるので、お手軽に刺しにいくスタイルとなりました。多少マイルドになったかな。

PL人数は1名向けで作ったシナリオですが、伊織の事故イベントあたりを調整すれば複数人でも遊べると思います。
事故目撃者は気絶、目撃していない人は気絶した探索者の回収に警察から連絡を受けるだとかなんとかで。


それでは。ここまで目を通してくださり、ありがとうございました!




▲上に







▽2020/02/01 KP概要ミス修正
2020/01/20 up

WaKaMuRa
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