7・12

日記を買ってもらった
誕生日プレゼントだ

なにかひとつのことを
続けるというのは
どうにも苦手なので
たまに書くことにする


7・13

たまにといいつつ
今日も書いてみる
わたしのことだし、三日坊主かな

屋敷があわただしいと思えば
お兄ちゃんが喧嘩して帰ってきたらしかった
お兄ちゃんはいわゆる反抗期みたい
お父さんやミタさんにあたってる
わたしには優しい


7・14

今日で三日目
わたしにしては珍しい

今日は、お兄ちゃんといるとたまに
月の声がすることに気付いた

月の声…変なの
でも、そうとしかいえない
月が囁くの、海を呼んでいるの
奥の奥のずっと奥に潜む何かの
昔のような夢のような
ゆらゆらと青く碧く

相談した先生に変な顔されちゃったから
これはもう誰にも言わない方がいいな


7・15

月はきれいすぎて怖いと思った


7・16

お兄ちゃんが私のこと好きだって
私も好きって言ったけど
私の思っている好きと違うって
もしかして、「好き」って、「好き」?
兄妹なのに


7・17

昨日のこと、読まれたら困るや
大丈夫だとは思うけれど
鍵をつけておこう


そういえば、昨日から背中が傷む気がする
成長期なのかな、のびたらいいな


8・2

部屋にも鍵を付けてもらえることになった
ちょっとうしろめたい気分


8・5

背中が痛いのが続いてる。
鏡で見たら、肩甲骨のあたりに小さな跡ができてた。
寝ている間にでもぶつけちゃったのかな?


8・6

お兄ちゃんが一緒に家を出ようって
お兄ちゃんのことは嫌いじゃないけど
お父さんもミタさんも私には大事
お兄ちゃんには分かってもらえないみたい

好き、とか言われたことも
兄妹だから駄目って言ったら
血がつながってないのに、って
お兄ちゃん意地悪な顔したの

わたしはこの家の子じゃないって
拾われてきたんだって
うそだ、そんなの私は知らない

ちょっとだけ、けんかになった


8・8

お兄ちゃんが死んだ
多分わたしがころした
ころしてしまった

ごめんなさい

お兄ちゃんがわたしを
連れて行くって言って
月の声がうるさくてうるさくて
背中が熱くて、痛くて、焼けるみたいで
気付いたら真っ赤で

お兄ちゃん
お兄ちゃん
お兄ちゃん、お兄ちゃんが
おにいちゃんがいっぱいで赤くて
お兄ちゃん








7・12

15歳になった

日記を随分書いていなかった
あの日のことはあまり思い出したくない

月の声は、最初は『音』だったのに
最近は『言葉』がたまに混ざるようになった

月の声によると私は「カグヤ」、月の姫なんだそうだ
……私、世間様でいう、厨二病なんだろうか?


7・17

今日は月の声に呼ばれて竹林に行った
「月の使者」と出会った。月から私を迎えに来たらしい
大人になったら、私は月に連れて行かれちゃうんだって
それってどこのかぐや姫

7・18

月の声曰く
私を好いた人、私に告白した人は
試練――不幸が、訪れるらしい

お兄ちゃんはそれで死んだのだと
…私が殺したのと同じじゃないか

それは「カグヤ」が大人になるために必要なんだって
「カグヤ」は自分に告白した人しか食べられないから



(このページは破られている)

10・14

もうすぐ写生大会
上手くかけるかな

写生大会のペアはPC1
何年も見てきた顔だけれど
難しい


10・15

写生大会のためにPC1を観察した
どきどきした

でもきっと過剰に意識しているだけ
それだけ。うん、それだけ








4・9

高校生になった!
とはいっても、地元だけあって中学からの知り合いも多い
そしてPC1とまた同じクラスだ


7・7

七夕、織姫様と彦星様
お願い事かなえてもらえるなら
わたし、人になりたい

最近は、月の声もはっきり『言葉』としてききとれる
わたしは人じゃない、と何度もきこえた

卵から生まれた鳥の子








3・12

お父さんの新しく作った名刺の色がかわいかった
鳥の子色というらしい
ワンポイントではいった鶯色の線がおしゃれ

わたしも名刺ほしいと言ったら
お父さんの名刺をもらった
…自分の名刺を作りたいって意味だったんだけどなあ


7・6

月の声がだんだん、わたしの声にきこえてきたように思う
月の声はわたしなのかもしれない


7・11

何故か40歳くらいのおじさんにプロポーズされてしまった
この暑さで頭でもおかしくなったのかな
名刺は受け取ったけど、こわくてすぐに逃げた


7・12

18歳になった
おめでとう、わたし!

お父さんに、私は本当の子じゃないって
打ち明けられた。
ああ、やっぱりお兄ちゃんがあの時言ったのは
本当だったんだって思ったけど、
やっぱり、お父さんは私のお父さんだ

PC1に誕生日プレゼントを貰った
写真立て…折角だから使うことにしよう
懐かしい写真を入れてみた


7・13

道行く人に急に告白された
茶髪のお兄さんだった

「黒髪ロングふぁぁぁあん最高! 結婚してください!」だ、そうだ
……この人は髪と結婚したいんだろうか

このところ、何か変だ
初めて会った人に告白される…これって、モテ期ってやつ?
…あまりうれしくはない


7・14

わたしのばか、わたしのばか
何で忘れていたの
告白されたら契りになる

今朝のニュースでここの近くで殺人が起きたって
この間、40歳くらいのおじさんにもらった名刺にあった名前と
死んだ人の名前が一緒だった

連続殺人事件…ああ、
もしかして、全員死んだのかな

……考えたくない


ああ、背中が痛い


7・16

こわい。
自分でも気づかないうちに、夜、外を歩いている事がある


7・17

血の香りがする
しにたい


7・18

あの本を書いた先生に電話して
どうしたら帰らなくて済むのか訊いた

ああ、
『試練を果たせばいい』だなんて
なんて無茶な話だろう


7・19

月に帰れば逃げられる?
逃げる? 罪から? 罪って何だっけ
私はここに居たいよ

「月の使者」が、
もうすぐ大人になれますねって言って
喜んでいた
月に帰る準備が進められているみたいで
このところずっと杖みたいなのを振り回している

私は大人になりたくない
次の満月までになんとかしないと


7・20

やっぱり、奇跡なんてないんだ

折角一緒に勉強しようって約束したのに、やっぱりこうなっちゃった。
…仕方、ないよね。

もう時間がない


(「誰か助けて」と書いてあるようだが荒っぽく塗りつぶされている。)